「ICTを使う授業」から、デジタル学習基盤を生かす授業へ

教育 × 生成AI

「ICTを使う授業」から、
デジタル学習基盤を生かす授業へ

生成AIの活用が広がる中、学校教育に求められているのは、 新しいツールを導入することだけではありません。 一人ひとりの学びを支え、深い学びへつなげるために、 学習環境そのものをどのように設計するかが重要になっています。

先日、生成AIと教育について学ぶ研修に参加しました。 そこで特に印象に残った言葉が、 「デジタル学習基盤」です。

これまで学校現場では、 「ICTをどのように授業で活用するか」が しばしば議論されてきました。

タブレット端末を使う、デジタル教材を提示する、 オンラインで課題を配信するといった取組です。 しかし、これからは単にICT機器を授業に加えるのではなく、 デジタルを前提として学習環境全体を設計するという考え方が、 より重要になっていくと考えられます。

これまで

ICTを授業で使う

授業の一部に端末やデジタル教材を取り入れ、 教師の説明や活動を補助する。

これから

学び全体をデジタルで支える

教材、学習履歴、フィードバック、振り返り、 評価までをつなぎ、一人ひとりの学びを支える。

「ICTを使ったか」ではなく、
「デジタルによって学びがどう変わったか」

手段ではなく、生徒の学びの変化を中心に考える必要があります。

次の教育課程で重視される学び

今後の教育課程をめぐる議論では、 「深い学びの実装」「多様性への対応」 「実現可能性の確保」などが重要な視点として挙げられています。

すべての生徒に同じ課題を同じ方法で与えるだけでは、 一人ひとりの理解度や学習速度の違いには十分に対応できません。

指導の個別化

生徒の状況に応じて、 必要な場面で重点的な指導や 異なる支援方法を提供します。

学習の個性化

一人ひとりの理解度や学習速度に応じた 活動や課題に取り組めるようにします。

協働的な学び

個人での学習と、他者との対話や共有を組み合わせ、 考えを広げ、深めていきます。

デジタル学習基盤は、 こうした学びを支えるための土台です。 教材、学習履歴、フィードバック、振り返り、評価などが 分断されずにつながることで、 生徒も教師も学習状況を把握しやすくなります。

生成AIは「答えを出す道具」だけではない

生成AIというと、文章を作る、問題の答えを出す、 要約するといった使い方が最初に思い浮かびます。

しかし、教育における生成AIの可能性は、 答えを素早く示すことだけではありません。

生成AIを「深く考えるための対話相手」にする
1
生徒が振り返る 学んだ内容や、自分の考えを文章で表現する
2
AIが問いを返す 理由、具体例、別の視点などを尋ねる
3
考えを深める 自分の理解を見直し、さらに考え直す
研修で紹介された実践

学習指導要領の内容を生成AIに読み込ませ、 生徒が書いた振り返りの深さに応じて、 AIから返す問いやフィードバックを変える実践が 紹介されました。

振り返りが表面的であれば、具体例や理由を尋ねる。 十分に考えられていれば、 別の視点や次の課題を提示する。

生成AIを、答えを与える道具ではなく、 深い学びを促す対話相手として 設計している点が非常に印象的でした。

重要なのは、AIが生徒の代わりに考えることではありません。

生徒自身が考えを整理し、現在の理解を確かめ、 次に何をすべきかを判断できるように支援することです。

自己調整学習をどう支えるか

今後の教育では、 子ども自身が学びを調整する力が、 これまで以上に重要になると考えられます。

自己調整学習とは、 単に自分のペースで課題を進めることではありません。

1
現在地を知る 自分ができていることと、 改善が必要なことを確認する
2
方法を選ぶ 自分に必要な練習方法や 課題を選択する
3
振り返り、修正する 結果を確かめ、 次の学習方法を調整する

そのため、デジタル教材に必要なのは、 「問題を出して点数を表示する機能」だけではありません。

なぜ間違えたのか、どこが改善したのか、 次は何を意識するのかを考えられる仕組みが必要です。

生成AIを使うことで生じる課題

生成AIを導入すれば、 自動的に学びが深くなるわけではありません。

使い方によっては、 かえって考える機会を減らしてしまう可能性もあります。

01 認知的オフローディング

記憶や文章作成などの作業をAIに任せることです。 負担を減らせる一方で、 任せすぎると自分で考える機会が減る可能性があります。

02 メタ認知的な怠惰

AIの回答をそのまま受け入れ、 「本当に正しいか」「自分は理解しているか」を 確かめなくなる状態です。

03 記号接地の問題

言葉を形式的には使えていても、 実体験や具体的な意味と 十分につながっていない状態です。

04 確証バイアス

自分の考えに合う情報ばかりを受け入れ、 反対の情報や異なる可能性を 見落としてしまう傾向です。

こうした課題を避けるためには、 AIを自由に使わせるだけでは不十分です。

どの場面で、どのような目的で使い、 使用後に何を考えさせるのかを、 教師が設計する必要があります。

教師の役割は小さくなるのではなく、変化する

AIやデジタル教材が広がると、 「教師が必要なくなるのではないか」という意見もあります。

しかし、教育現場ではむしろ、 教師の役割がより重要になると考えます。

AIやデジタルが支援できること

  • 繰り返し練習する機会をつくる
  • 学習結果をすぐに返す
  • 学習履歴を記録する
  • 生徒ごとに異なる課題を提示する

教師が担うこと

  • 学習の目的や課題を設計する
  • 生徒の状況や背景を見取る
  • 必要な支援や声かけを行う
  • 個人学習と協働学習をつなぐ

教師の役割は、すべてを一斉に教えることから、
一人ひとりの学びを設計し、支援することへ。

デジタル学習基盤は、 教師の代わりになるものではありません。

教師が生徒を見るための時間を生み出し、 必要な生徒に必要な支援を届けるための環境です。

SHADOW SPEAK

英語の音声学習にも、自己調整のサイクルを

Shadow Speakでは、 生徒自身が英語を聞き、声に出し、 自分の音声を確認しながら改善できる環境を目指しています。

聞く
声に出す
録音する
確認する
改善する

これは、AIに学習を任せることではありません。 生徒の自己調整学習と教師の指導を、 デジタルによってつなぐための設計です。

大切なのは、AIを使ったかどうかではない

これから学校現場では、 生成AIを含むさまざまなデジタル技術が、 さらに身近になっていくでしょう。

そのときに問われるのは、 「新しいツールを導入したか」ではありません。

そのツールによって、 生徒が自分の学びを振り返れるようになったか。 一人ひとりに必要な学習機会を提供できたか。 教師が生徒を見るための時間を生み出せたか。 そして、学びが以前より深くなったか。

ICT活用の先にあるものは、 機器を使う授業ではなく、 生徒と教師の学びを支える環境づくりです。

※本記事は、生成AIと今後の教育に関する研修内容を基に、 学校現場と英語教育の視点から整理したものです。 今後の制度や学習指導要領の内容については、 文部科学省等から公表される正式な資料をご確認ください。